岸辺のアルバム

秋の三連休は絶好の行楽日和だった。にも関わらず、必要な外出と休日出勤以外はほとんどテレビを見ていた。
ケーブルテレビで録り貯めておいた、1977年のドラマ「岸辺のアルバム」全15話を見ていたのだった。
その感動覚めやらず、つぶやいてみたりしたものの、まだ物足りない。言い足りない。

1977年の放送なので、実際に見るのは初めて。でも、山田太一の不朽の名作として名前は知っていたし、昔の名作ドラマといったテレビ番組で、最終回の流される家にさようならを言う場面は何度か見ていた。

少年、青年時代を戦中で育った仕事人間の夫、杉浦直樹。子どもが自分の世界を持ち始め、夫とも接点が持てずに孤独に過ごす妻、八千草薫。母のようになりたくない、既成概念にとらわれたくない、別の世界に生きたいと英語を学ぶ優等生で美人の姉、中田喜子。大学受験なのに勉強に身が入らない、正義感だけは強い弟、国広富之。
この4人の家族がそれぞれ秘密を持ち、衝突し、再生する物語が、実際に1974年に起こった多摩川堤防決壊を目指して、進んでいく。

駅で見かけた妻に電話をかけてくる見知らぬ男が竹脇無我。今なら変質者かストーカーで片付けられてしまいそうなのに、徐々に妻の日常に入り込んできてしまう。最初は電話、次に喫茶店での会話、そして浮気の提案と。話す内容はクラシック音楽だったり、絵画だったり。これまで話し相手すらいなかった妻は、いつの間にか会うことを心待ちに。知性を伴ったエロスは敵無し。

夫は空襲体験を持つものの、凋落著しい会社の方針に従い、武器の製造、輸出に関わらざるをえず、さらにはやくざまがいの仕事もさせられる。ストレスで毎晩、付き合いの酒を飲み、妻に言われて子どもを叱るぐらいしか家族との接点がない。

姉は帰国子女の友人に紹介されたアメリカ人にいいように利用され、妊娠させられる。

弟は、家族のすべての秘密を知ることとなり、「インチキ家族」に我慢がならず結果、浪人してしまう。
後半には気持ちを抑えきれず、家族の秘密をぶちまけ、家を出ていく。

ぐらつく家族の周辺の人として、弟の高校時代の担任が登場する。これが津川雅彦。
姉の中絶を世話し、「嘘はきらいだ。生とか死とかそういったものを馬鹿にする人間も嫌いだ」と話す30代後半の高校教師は、さぞ苦労してきたのだろうと思わせるけれど、その人生は語られない。地に足がつき、つねに変わらない津川がいるから、不安定な家族の物語も、まっすぐ見ていられたのかも。
弟の押しかけガールフレンドが、「哀愁のある顔だから哀愁って呼んで」と言い放つ風吹ジュン。哀愁って。。。愛嬌があって、ちょっと崩れた感じがかわいい。しかも、モスバーガーの店員だ!

どの俳優もうまいのだけど、ちょっと動きがとまっても、一枚の絵のように様になる。回想シーンも音楽とあいまって、急に今のシーンに切り替えしたり。ふっとすごい沈黙があったり。気を逸らす暇がない。
15回を通して、大きな事件ばかりが起きるわけではなく、穏やかな日々も描写される。そんな日々でも、ふと心に引っかかる出来事はあって、そのすべてが多摩川堤防決壊に向けて進んでいくのだけれど。

台風で水かさが増したために、中学校に避難した家族は、心配で哀愁と一緒に顔を出す弟と合流する。そして終わりが来る。

「母さん、小堤防が決壊したよ。眠れないから2階から見ていたんだ。」と、夫が淡々と事実を妻に伝えるシーンが印象的。
そして避難先から一時家に戻り、リビングの割れた窓ガラスを見て取り乱す夫。どんな思いでこの家を手に入れて、守ってきたのか。母さん、ソファにいつもどおり座るんだ。何があってもここを離れないぞ。そんな夫を見て、あなたは家族と向き合ってこなかった、逃げてきたじゃないのと、初めて妻が非難する。そして最後に目を伏せて、「寂しかったのよ」と。その時、夫も初めて妻と向き合い、妻の名前を呼ぶ。このドラマで、初めて妻の名前が呼ばれた瞬間だったかもしれない。

家が流されることが決定的となると、最後に貴重品を持ち出すために家族は家に入ることを許される。そこで持ち出されるのがアルバムなのだった。この家はもうダメよ!と妻が叫ぶ中、アルバムを持ち出す弟が、この家にさようならを言おうじゃないかと呼びかけ、家族それぞれがさようならを告げる。
家が流されるシーンや堤防を爆破するシーンなどは、多摩川堤防決壊当時の映像が使われていて、生々しい。

家が流されたことで、これまでの確執もすべて流されたかのようだった。公民館のようなところで布団を並べて横になる4人は確かに家族だった。
ラストシーンで家族は、台風が去った後に多摩川の下流を見に行く。
流された家屋の残骸が散らばる中、妻が「うちのだわ!」と走り出す。姉も弟もうちのだ、うちのよ!と。夫も続いて行く。

「うちの」残骸は屋根だった。屋根だけがそのままに残されて、草の生い茂る河原に残されていた。
家は確かに流されて、壊れてしまった。でも屋根だけは残されている。
屋根の上に座って、これからのことを話す家族は、生まれ変わったようだった。
ついに会社が傾き、希望退職に応じようと思うと語る夫と、妻はこれからも暮らしていくんだろう。お互いに向き合って。興味がない話もふんふんと頷きあいながら。
姉は高校教師と新しい家庭を築き、きっと弟もガールフレンドと商売を始めたりするんだろう。
以前と同じ家族ではないけれど、新しい家族の話が始まっていくんだろうなと思わせるラストだった。
見終わって、胸がいっぱいになった。確かに名作だー。

山田太一の連続ドラマをきちんと見た覚えがなかったのだが、俄然興味がわいてきた。
ありふれた奇跡も、DVDを借りてこよう。

岸辺のアルバムもDVDを出せばいいのに。。。

岸辺のアルバム (光文社文庫)


Posted by sbt at Ottobre 13, 2009 | 雑記帳

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岸辺のアルバムへのコメント

八千草薫と竹脇無我・・・・!
このキャスティング ドキドキ です!


私自身、
生まれてこのかた家族というのは人生の大きなテーマで、
多摩川の決壊と同じように
私の心もたびたび決壊しますが
なぜか私の心にも屋根、に匹敵する何かが残り、
何度も関係を思い直し続けて今に至ります。

風吹ジュンでした~

post by p-rism at 16.10.09 16:17

わー、哀愁だ。哀愁だー。


post by sbt at 17.10.09 22:52

懐かしいです。
大学時代、再放送を見てました。

4~7歳までと、10歳~21歳まで狛江で過ごした私には、多摩川決壊は特別な感慨をもつ出来事です。
あれほどの大決壊ではなくても、その後も多摩川はよく氾濫したんですよ(笑)
よく覚えてないけど、避難所に供出するために母がわたしの服のお古やくたびれた毛布などをまとめていたことだけは、なぜか鮮明に覚えています。

だからドラマも親はリアルタイムで見てたんですよね。
そういうドラマをやってるのよ、ってことだけはよく聞きました。
そして決壊寸前の家の中での夫婦のシーンがいかに素晴らしかったか、よく聞かされてました。

わたしの最初の感想は「国広富之(の役)、よく喋る男の子だなー。」でしたが(笑)

感情を全部、言葉にして表現するんですよね。

このドラマは日本で初めてTVで「セックス」というセリフが言われたドラマだという噂を聞いたことがありますが、真偽のほどはよくわかりません。

山田太一のドラマでしたら、他にも「沿線地図」もテイストが近いですよ。
http://www.tvdrama-db.com/drama_info/p/id-17164

てか、「ふぞろいの林檎たち」はご覧になってなかったんだ!?意外。。。

post by みどろ at 23.10.09 01:18

さすが詳しいですねー。
決壊寸前の家で、初めて夫婦二人で向かい合うんですよ。
夫が妻の名前を初めて呼ぶところは、本当にはっとしました。
なぜ今まで山田太一のドラマに関心がなかったのか、
自分でも不思議。。。

post by sbt at 29.10.09 13:33

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